脳性まひの治療の概略
適切な目標設定が大切です
脳の損傷による障がいを全くなくすことはできません。では、どんな治療も無駄かというと、そうではありません。
たとえば障がいがない方でも、逆上がりができない人からオリンピックの体操選手のような人まで、できることに大きな違いがあります。十分に考えられた方法でしっかり練習すれば、その人が持っている力を十分に引き出し、できることを増やせるのです。
では、運動が上手になればそれでいいかというと、それも違います。
脳性まひの方の多くは運動だけでなく知能やコミュニケーションにも問題があります。また、運動の上達ばかりを追い求めて、自信を失ったり精神的な問題を抱えたりすることも稀ではありません。
いろいろな問題に目を向けながらも、できることをしっかりと見極め、それに向かってご家族と一緒に前向きな気持ちで取り組みことが大切です。
一人ひとりに合った治療を
脳性まひに対する治療法には多くのものがあります。適切な治療法を選ぶのは、簡単なようでとても難しいことです。
書籍やホームページを検索するとそれぞれの治療法の良い点・悪い点は書いてありますが、いつ・どのような方が受ければいいかはよくわからないことが多いです。
大切なのは、その方のタイプや重症度、そして年齢に応じてどのような治療をするかを決めることです。
脳性まひには様々な型と重症度があり、それぞれに治療方針は異なります。また、身体や心の成長に伴って症状や問題点が変化するので、そのつど適切な治療を行う必要があります。私たちは、十分な評価をもとに長期的な方針を建て、どの時期に何をしたらいいかを説明し、必要なものを提供します。
脳性まひの治療法
大きく内科治療(投薬など)と外科治療、そしてリハビリテーションに分かれます。
また、自閉症などの発達障がい、てんかん、栄養障がい、変形・拘縮などを合併した場合は、それらの対策も必要です。全てを総合して適切な治療を提供するには、小児科・内科、整形外科、リハビリテーション科の緊密な連携が必要です。
私たちは、リハビリテーションに加えて、下記のような多くの治療法を提供できます。
- 緊張や不眠に対する投薬の調整
- ボツリヌス治療
- 髄腔内バクロフェン注入療法
- 装具療法
- 筋解離術や筋・腱延長術
- 骨形成術など
上記以外の治療法(抑制療法や脊髄後根切断術など)や、まだ開発中の方法(ロボット治療や磁気刺激、幹細胞治療など)についても常に最新の情報を学び、必要に応じて連携施設や専門家を紹介するようにしています。
合併症への対応
合併症に対しては、抗てんかん薬の調整、発達障がいや心理的問題に対する指導、学習指導などを行っています。
消化管合併症(嚥下障害、胃食道逆流症など)や呼吸器合併症(気管狭窄など)については、専門施設を紹介して共に治療にあたります。
信頼できる多くの機関と連携がとれることも、私たちの強みです。
カンファレンス
入院時には必ず、医師、療法士、看護師などの担当者が集まり、患者さんを一緒に診察し、時にはその場でご家族の意見を聞きながら、徹底的に治療方針を議論します。 ピントがはずれた治療を漫然と続けることほど、患者さんにとって不幸なことはありません。時期を逃すとできるはずだったこともできないままになってしまいます。 常に何が最善かを見直すことが大切です。 |
治療の効果
小児期
小児期には持っている機能を十分に高めることが目標の一つです。 グラフは適切な時期に月単位で入院し、集中的にリハビリテーションを行ったお子さんの運動機能の変化です。
集中的なリハビリテーションに手術などの必要な治療を組み合わせた時、しばしば大きな運動機能の伸びがみられることがわかります。ただし、長い入院はお子さんやご家族に負担がかかりますので、必要な時期に必要なだけ行うことが肝要です。 |
柴田徹ら、リハビリテーション医学(2005年)より引用 |
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青年期以降
青年期以降は運動機能が徐々に落ちていくことが多くの報告からわかっています。さらに、脳性まひの方は障がいがない方よりも早く運動機能が低下します。
治療の目標は機能を低下させないこと、そしていったん機能が落ちても早めに回復させることです。
過去2年半の間に、入院で2回以上集中リハビリテーションを受けた12歳から54歳の脳室周囲白質軟化症による脳性まひの方(全54人)を対象に、年ごとのGMFMの点数を調査したところ、点数が低下した方は8人にすぎず、29人の方は点数が増加していました。
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